【短編】棘のない薔薇




「――――笹本くん」




突然降ってきた声。


聞き間違うはずもない、この声。


俺はゆっくりと顔を上げた。




「…何ですか、“先生”」




俺の言葉に相手はふわりと微笑んだ。




「顔色が悪いわ。貧血かしら、大丈夫?」




そう言って伸ばされた手が、俺の頬に当てられる。


その瞬間。




「おいっ」




彗が声を荒げた。




「彗」




“やめろ”


そう目で訴えると、彗はくしゃりと顔をしかめた。


美咲はというと、この状況についていけていないらしく、オロオロと俺と彗の顔を見比べていた。




「美咲、彗。お前たちは先に戻ってろ」


「れ、蓮さ…」


「心配するな、すぐ戻る」




不安げに瞳を揺らす美咲の頭を撫で、小さく微笑んだ。
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