花霞む姫君
「なんか飲む?」

と先輩は公園の入り口にある自販機を指差した。

実際、歩いて汗もかいていたし、喉もかわいた。

「…自分で買います。」

「まあまあ、おごらせてよ。」

と勝手に炭酸飲料を二本買うと、木陰にあるベンチに座った。

「払います。おごってもらう義理はないです。」

「いいじゃない。こんなことで恩をきせたりしないよ。」

と、手招きして、ベンチの空いているところをポンポン、と叩いた。


…強引なときもあれば、優しいときもある。
よくわからない、この人。


ベンチに座ると、炭酸を私のほっぺに押し当ててきた。

「ひゃっ!」

「ははは、冷たい?」

「…もう」


警戒心のない、無邪気な先輩の笑顔。

ちょっとキュンとしちゃう自分を打ち消す。

だって…普通ならこんなかっこいい先輩と二人きりで公園にいるなんて。

夢みたいなシチュエーションなのに。

…普通なら、ね。
< 44 / 63 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop