xxxFORTUNE
仕方なく、小さな声で話しかけてみることにした。
もちろん、返事が返ってくるなんて思ってない。
でも、何もしないよりはマシでしょ?
「もしもーし、魔界のお客さんいらっしゃいますかー?」
ひとつひとつ教室を見回って、気配を追っていくこと数十分。
迷い込んだ者は、ひどく学校の敷地内を移動していたみたい。
気配がグシャグシャに混ざっちゃってる。
「もうっ、お願いだから出てきてよ……」
探しても探しても見つからなくて、自分のクラスの自席に力無く座り込む。
と、不意に教室のクリーム色のカーテンが、そよそよとなびいた。
戸締まりは厳重で窓は開いてない。
風が入り込むはずないのに。
「誰かいるの?」
恐る恐る問いかけると、答える代わりにそれは正体を現した。
闇夜でも月明かりに照らされて映える、真っ黒な艶のある毛並み。
吸い込まれそうな光を宿った翡翠色の瞳。
響きを奏でる鈴の高音。
「あなたが、迷い込んだ者?」
そこにいたのは、すらっとした美しい黒猫だった。