希望という名のきみへ
「わたしは男性化している」
「えっ?」
「当然だろう。
今、このエリアに居るのは、わたしとお前だけだ。
お前が女性である以上、わたしが男性化するのは必然だ」
戸惑うわたしを気遣うように、永遠はわたしに食べ物を勧めた。
「兎に角、今は体力を回復させることが先決だ。
生き延びたのは我々新人類だけではない。
このテラは、生物共存の共同体だ。
我々以外の下等動物は、まだ雑食を重ねている。
捕食されぬよう、知恵と体力が必要とされるのだ」
永遠がわたしに差し出したのは、目を疑うような色鮮やかな種子。
赤や黄色や緑のそれを、永遠は器用に切り分け、わたしの口に運こぼうとした。
「いや結構。空腹は感じていない」
食べ物を拒否するわたしの口に永遠が無理矢理それを押し込もうとする。
顔を背けたわたしの口元には、種子から溢れ出る果汁が付いた。
永遠は少しだけ顔をしかめ、小さくため息をいた。
「テラの意思を無駄にするとは……」
そう呟いて自らの口をそこに当てた。
彼は自らの口で、わたしの口元に溢れた果汁を拭ったのだ。
その突然の行為は、わたしがかつて経験したことのない不思議な感覚だった。
最後にわたしの口元を舌で舐めとり、永遠はこう囁いた。
「わたしはお前を必要としている」
と……
わたしの知っている科学など、永遠の言葉の前では意味をなさなかった。