希望という名のきみへ



駆け出した足元には、テラの大地が広がっていた。



踏みしめるほどに香る、草いきれ。

その匂いに咽ながら、その柔らかな感触が何なのか判らぬまま、わたしは大地を踏みしめていた。


ミテラの無機質な床とは全く違う、不規則な隆起と重なり。

草で覆われた大地は、見た目の美しさに反して走りにくかった。

案の定、わたしは足を取られて転がった。

大地はミテラの床のように平らではないのだ。

地面に身体を打ち付けられたわたしは、そこで不思議な音を聞いた。


微かに震える高周波音。


目を閉じると、それはわたしの頭の中で歌い始めた。


「ほう、鈴虫がもう出てきているのか」


そんな声がわたしの隣りで聞こえ、わたしは永遠に追いつかれたことを悟った。
< 18 / 99 >

この作品をシェア

pagetop