希望という名のきみへ
「スズムシ?」
「そう、テラに巣食う昆虫の類だ。
種子植物の交配には、昆虫の手助けが必要だ。
お前も知っているだろう?
古の昔からテラに住まっていたこの昆虫達のことくらい」
わたしは、ミテラの図書館にあった古い図鑑のことを思い浮かべていた。
が、姿の見えぬこの虫の、この音だけを聞いてそれを思い浮かべようとしても無駄なことだ。
「形はわかっても、音はわからぬ」
わたしはそう言って不貞腐れた。
「確かにそうだな、悪かった。
昆虫は、音を発して雄が雌を呼び寄せるのだ。
この音は愛を奏でる歌だ。
そう知れば、お前もこの音に愛着が沸くだろう」
テラは愛で満ち溢れている。
そう言うことか、とわたしは思った。
ここでは全てがエネルギーとしての愛にたどり着く。
永遠がわたしを追うのも、愛故なのだ。
わたしは隣りに横たわる永遠を求めて手を伸ばした。
と、その手は直ぐに彼に捕らえられる。