希望という名のきみへ
名前
わたしは朝日と共に目覚めた。
目の前に広がる景色に呆然となる。
それは、ミテラからは想像もできない景色だった。
草木一つ生えることはない、と教わっていたテラには緑が戻っていた。
大地を覆う草が朝日を浴びて輝き光る。
その向こうに連なる山々にも緑が茂る。
これも永遠の言った、シダ植物の犠牲の賜物なのだろうか。
『全てのものは、何かの犠牲の上に成り立っている』
そうわたし達に説いたのは、ミテラを造った、故リヒテンシュタイン博士だ。
彼は、わたし達に選民思想を植え付け、わたし達に義務を課した。
生き残った地球人として、この種を存続させる。
そのために払った犠牲は計り知れない。
家族、愛、自由、そしてテラ。
その犠牲は、ほんとうに必要なものだったのだろうか?
わたし達は母なるテラからも切り離され、孤高のうちに全てを失おうとしているのではないか。
全てを手に入れるために、全てを失う。
シダの払った犠牲には価値があった。
だが、シダの救ったテラにわたし達地球人の住まう余地はもうない。
わたし達ミテラで生まれた地球人は、疑うという概念を排除されて育ち、欺瞞のうちに己を見失った。