希望という名のきみへ
そこには楽園が広がっていた。
泉を囲むように枝を伸ばす木々の先には、色とりどりに熟した果実が実っていた。
いとも簡単そうにその木に登り、子供たちが思い思いに実を頬張っていた。
甘い香で満たされた空気は、息苦しいほどだ。
わたしはその光景を見て息を飲んだ。
「ミク、お前も食べるといい」
永遠の手から黄色い果実が渡された。
「これは?」
「マンゴーだ。バナナもあるぞ」
それはミテラの植物図鑑でしか見たことのない、幻の植物の果実だった。
スキンスーツを纏っていた時には感じなかった、食べ物に対する興味が沸いてくる。
空腹には勝てず、わたしはその実を口に含んだ。
甘酸っぱい香りと共に、口の中に何とも言えない感覚が広がった。
――これが、味覚というものなのだろうか?
わたし達ミテラの地球人が、持てる限りの科学力を結集して合成した人工栄養食。
それは、味気なく、食感もない液状で、お世辞にも好んで食べたいものではなかった。
時間になれば与えられ、習慣として接取するエネルギーとしての意味しかない。
――なんということか……
生き生きと声を上げてはしゃぐ子供達。
口元から滴る果実の汁を、美味しそうに舌で舐めとる仕草。
生きる為に食べるのではなく、食べたいという欲求で生かされる。
ここではそれが可能なのだ。
わたしはその実を味わいながら、いつしか涙を流していた。