希望という名のきみへ
「彼は言っていたわ、長い年月をかけて見聞きしたことが彼の今を作っているのだと。
それは、今を知る為だけではなく、テラの意思を見極める為だと。
彼の意思はダイチに引き継がれる。その為にハクはここへ戻ってくる」
「ここへ?」
「そう、一年の半分を彼はここでダイチと過ごすの。
あの子と語り、教え、時間を共有するために。
それが父親の役目なんですって」
「それは珍しいことなのか?」
「わたし達新人類は、基本、子育てはしない。
両性具有のわたし達に母性は乏しい。産み落として直ぐに子を泉に預けるくらいですもの。
それに寿命も短いの。わたし達の寿命は長くて四十年。
ウォークアラウンドの間に命を落とす者も多い。
出会って、交わって、子を宿し、産み落とす。
それがわたし達の愛の営み」
風はわたしの目を真直ぐに見て、そう言った。
「それでも産まないよりはいい。
恐らくわたしは、トワの子を産むことはできない……」
わたしは周期的に訪れる吐き気に身をよじった。
この拒絶反応は並じゃない。
全身から吹き出す汗。
もう吐きたくても胃の中には何も残ってはいない。
わたしは下腹を抱えながら、その苦しさに堪え切れず意識を失った。