×真夏の[変態]恋伝奇×
…今回のことを反省すると、やはり網を振り下ろす直前に目をつぶってしまったのが失敗だ。
そして、思い切り天高く振り上げたのもよくなかった。
あたしの振り上げた網は、カブトムシよりもさらに高く位置する、立派な木の枝をとらえた。
もう一度繰り返そう
いま、あたしの網の中に収まっているのは、カブトムシではなく枝だ。
網はカブトムシに達する前に、木の枝に引っ掛かったのだ。
もちろんその反動で、大きなカブトムシは空高く羽ばたいていった。
その虚しさといったら例えようがない。
横で昆野くんは羽ばたいていったカブトムシを見上げていた。
数秒間、沈黙が続いた。
あたしは網を枝に引っ掛けたまま、昆野くんは空を見上げたまま、静止。
そして何かが弾けたように、二人揃って爆笑の渦に巻き込まれて行った。