×真夏の[変態]恋伝奇×
風が吹くと、それなりに涼しい。
すぐ傍には小さな川が流れていて、頭上からは蝉の鳴き声が聞こえる。
「こういうのを風流って言うのかな」
おっとりした口調の岡部が、さらにおっとりしたことを言う。
ときどきこんな一言を呟くのだ。
そしてすぐさま、がさつな寺島が口を開く。
「フーリュー?ああ、なんだけ、あれだろ。とりあえず味わい深いよ的な」
「軽っ。なんだそれ。意味合ってるけどなんか台無しっ」
「でもよー。フーリューとか言う前にただ暑苦しいだけじゃね?昨日の朝だってさ、俺、蝉の鳴き声で起きたんだぜ。あれはキツいわ」
蝉の鳴き声で朝目が覚めてしまうというのは田舎あるあるだ。
あいつらの活動開始はおよそ五時すぎ。
朝っぱらから、なかなかうるさい声で鳴き散らすのだ。
確かに、風流とは言い難い夏の現状だ。
「たぶんだけど、風流だとかなんとかだって、田舎が珍しい都会人が思うんじゃないかな。ほら、僕らが渋谷の人の多さに感激するみたいにさ」
岡部は俺たち三人の中で、唯一の秀才だ。
やはり秀才は言うことも例えも格が違う。
俺と寺島は揃って感嘆のため息を漏らした。