×真夏の[変態]恋伝奇×
「じゃあ、またねトオルくん」
俺に若いと言われたのが相当嬉しかったのか、洋子さんはこちらの空気を察することなく、ルンルン気分で店を後にした。
俺はしばらく丸椅子に座って、呆然としていた。
…嗚呼。
俺は五十前の人妻に欲情していたのか。
危うく肩に手を置いて、やばいとこまで踏み込んでしまうところだったなんて。
っていうか、その歳でノースリーブ丸襟のワンピースを着れる洋子さんは何者なんだ。
…なんて冷静につっこむ俺がいれば、意外とすんなり受け入れている俺もいた。
来月、五十歳か。
俺はもう十九になったから、ざっと計算して歳の差は三十。
洋子さんの悪戯っぽい笑みが浮かんだ。
歯を見せて笑う、洋子さんが。
…三十くらいなら、いいか。
うん、全然ありだ。
洋子さんなら。
レースの日傘が遠くなり、商店街から消えていった。
俺は額に滲んだ汗を拭いながら、そんなことを考えていた。
【 夏のある日の洋子さん fin. 】