えみだま
ここまでは順調。

いや、3ゲーム目のリターンまでは順調だった。

4ゲーム目は上手くサーブが打てなかった。

入ったことには入ったけど、いつもとは違う。

次のゲームではレシーブ。

上手く打てるか。

まずは紅祐のレシーブ。

かなり内側に打たれたサーブをストロークで返し、ストロークで返され、俺のバックハンドボレーで決まる。

「ナイスボレー」

紅祐はハイタッチを要求する。毎回欠かせないようだ。

「次とろう」

次は俺のレシーブ。

バックハンドに来たボールをクロス側にストロークで打つ。

角度がついた球は、ボールはバウンドをせずにコートの外側に出た。

「どんまい」

紅祐は苛立つこともなくそう言った。



結局、6-4。

また同じ結果となった。

紅祐は自分のせいで負けたと思っている。

審判をしていても、集中していないように見えた。

試合も審判も終わり、試合の結果もメールでしたところ。

俺達は帰る支度をした。

「ごめん。俺のせいで」

紅祐は1ゲームに1回ぐらいしか失敗していない。紅祐のせいであるはずがない。

「手首…」

「え?」

俺の発した言葉に、聞き返す紅祐。

俺は利き手である右手のリストバンドを外した。

「怪我…?」

古いものではあったが、確かに残っている切り傷。

「傷付いたのが1回、傷付けたのが1回」

「えっ…?」

紅祐は驚いているというより、怖がっている様子でいる。

「聞くの止める?」

「えっ…と…続けて?」

その表情は躊躇したようにも見えた。

「1回目は小1のとき。ラケットが削れると、内側の木が見えたり、出てくるの、知ってる?」

「うん…」

「ある人に、そのラケットで叩かれたんだ。そして、運悪く切れた」

「ひどい…」

「そんなことはない。元は俺が悪かったから」

「どうして?」

「それは言えない」

「………」

「2回目は中1。イジメを受けてた毎日だったけど、それ以上に、ある人とケンカしたことが大きかった。それで、自分で」

紅祐は深刻な顔をした。

「ある人って…」
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