えみだま
「さっきの発言聞いたから、実際にやってみた」

やってみた。って可笑しいだろ。

「身体張ってんな」

んな呑気な。頑張りすぎだから。

「ほら、風邪引くから座って、タオル巻いてて」

岩田は天音にタオルを渡した。

「ほら、って子供扱い?」

「いや、そんなこと…とにかく待ってて。ジャージ取ってくるよ」

そして、走り去った。

いや、走り去ろうとしたところで、夕月が目の前で立ちふさがった。

「何してるの?」

何やら機嫌の悪そうな声。

「ひなたの体育着が濡れちゃったから、ジャージを取りに…」

岩田の焦りながらの説明を途中まで聞いて、夕月は一瞬だけ天音を見た。すぐに岩田に視線を向ける。

「アンタ達は来月大会なんだから練習してて。私が取りに行く」

相変わらず厳しい。その言葉を残して、夕月は走り去った。

そして疑問。

「来月大会?」



「ストレートラリーっ」

「えーいっ」

次の練習の指示を天音から受け、全員で返事をする。テニス部の1つの習慣ってとこか。

いつも決まった相手と打つことになっている。

基準は実力。

番手戦と言う、簡単に言えば、順位を決める部内での試合を、実は先月の間にしてあった。

それによって、俺は5番手となった。

6人中だから、下にいるのは、俺と同じ初心者の上甲だけ。

んで、ラリーの相手はいつも上甲。

先月までは、俺らはラリーが思うように続かなかった。

1ヶ月以上経った今では、一生続くんじゃないかってぐらい続く。

ただし、ネットからラケット1本分以上高いぐらいのロブしか続かない。

ストロークはミスを生むだけ。

来月に大会があると思うと、少し焦る。

「クソッ」

ラリーをしている最中、ついストロークを打ってしまった。

その球は、まだストロークに慣れていない上甲に向かって飛んで行く。

いつもは入ってほしいと願う速い球を、今だけはネットにかかることを祈った。

その祈りは虚しく、まっすぐ上甲へと向かう。

「くっ」

ネット際から強力なバックハンドを打たれた。

そのボールは俺の左足へと飛んできた。

「少し休みなよ」
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