ONLOOKER Ⅲ

 * *

「さあ直ちゃん、がっつりもっさり説明してもらいましょーか?」


擬音というものは彼女に関してだけ、用途に意味はないに等しい。
ニュアンスで、もしくはなんとなく面白いから使う。
それが恋宵節なのである。

まだ少し目尻を赤くしたり、唇を尖らせたりしてはいるものの、いつもの調子が戻ってきた恋宵が、腰に手を当てて直姫と向かい合った。
その視線が注ぐのは、明らかな非難だ。


「いや、だって……確信はしてたけど、証拠もないのに言っちゃまずいかと思って……」
「だっても十手もないの! なんでもっと早く言わなかったの!?」
「十手って……」


さっきまでの取り乱し方がああなだけに、普段通りにばっさりつっこんでいいのかもわからないし、その上、直姫は説教を受けている身だ。
あまり強く出ることも出来ず、ぼそりと呟くに留めておいた。

かといって、別の誰かがつっこんでくれるわけでもない。
紅に至っては、聞こえていたはずなのに完全に受け流して話を進めようとしている。


「そうだぞ直姫! そしたらお前だって、そんな怪我をしなくて済んだかもしれないのに」
「えーでも……みんな薄々犯人分かってると思ってたんですけど……」
「でもも鱧もないってば!」
「鱧って……」


三人のやりとりを聞いていた真琴が、顎に指を当てて言う。


「あれ、けど、直姫の怪我があったから、里田さんは犯人じゃないかもってことになったんですよね? あんな物持ち上げるなんて、実は意外と力持ちなんでしょうか……」
「紐で鉢植え吊るしてから石を入れれば、持ち上げなくても落とせるよ」
「あ、そっか……」
「むしろあの不自然な鉢植えがあったから、犯人は非力な人だろうって確信持てたんだけど」
「あぁ、底から真っ直ぐ落ちてきたから避けられたって言ってたよな……」

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