ONLOOKER Ⅲ
「普通、リップクリームに針なんて思いつかないでしょ」
「えぇ、そうかにゃあ? 普段よく使う人なら、思いつくんじゃにゃい?」
「じゃ、あの三人の中で、そんなとこまで気を使ってそうなのは?」
元剣道部員、いかにも体育会系の豊中と、紅に歪んだ好意を持つ玉川。
どちらも、あまり外見に細かく気を配るタイプとは思えない外見だった。
それに、里田は女子生徒だ。
そんな嫌がらせを思い付くならば年頃の少女だろうと考えるのは、筋の通った話だ。
それから、今朝の脅迫状も。
同封された、無惨に切り刻まれた髪の束は、脅しに応じなければ明らかな悪意を持って危害を加える、それも、わざわざ紅の最大の魅力のひとつである、美しい長髪を狙うことを連想させる。
少し短絡的ではあるかもしれないが、髪は女の命というほどだし、それが精神的に大きなダメージになるのをよく理解しているというのは、犯人が女性であることを示している気がしてならなかった。
脅迫行為がそれだけだったとしたら、犯人の目的はわからないままだっただろう。
紅に危害を加えたい、という、わかりきった漠然とした情報しか得られなかったはずだ。
しかし髪の毛と一緒に入っていた脅迫状の内容から、やはり生徒会、恐らく准乃介から紅を引き離したい人、と考えるのが自然だということがわかった。
そして、里田が准乃介の熱狂的な大ファンであることは、紅を嫌っているのではないかと噂が立つほどに、周知の事実だったのだ。