ONLOOKER Ⅲ
主語がないのは、うぬぼれなどではなく、そんなものなくたって理解してくれると思っているから。
あまり多くを話したい気分ではないのか、紅は、言葉を選ぶわけでもなく、しばらく口を噤む。
気紛れに軽い溜め息を吐いてみたり、なにに対してだか、頷いてみたり。
こんなマイペースな姿、榑松にだってあまり見せることはなかった。
「父上のことは、聞かないほうが、いいんだろうか」
「……多分、ね。それを隠すために、あんなことしてるんだろうし」
「……いつから、なんだろうな……」
薄く笑って首を傾げる仕草は、ほとんど人に見せることのない、准乃介の困ったサインだ。
紅はその顔を見るたび、いつもほんの少しだけ優越感を感じている。
このことを、こんなふうに気にしているのは二人だけだろう(というより、きっと紅だけだ。もしかしたら、本人以上に)。
しかしその後、彼らがそれ以上この話題に触れることは、なかった。
『なんだか、そっくりすぎて』
誰にそっくりなのかも、知っているのは、二人だけ。
(つづく)