ONLOOKER Ⅲ
「えーと……シンガーソングライターのノエル、本名は山崎乃恵ちゃん、ね」
それが、膨れっ面と、終始恋宵を睨み付ける視線を除けば、恵まれた容姿をしているといっていい彼女の名前だった。
恋宵が猫なら、彼女を例えるものは、花だろう。
清楚や可憐という言葉がぴたりと当てはまるような、そんな少女だと、直姫でなくても感じるような人物だ。
ノエルといえば、最近の新人歌手の中では恋宵と人気を二分していると言っても過言ではない、そんな存在だ。
恋宵がシュールな正統派パンクロックなら、ノエルはメッセージ性に富み、耳馴染みが良く爽やかな、ポップス路線。
年齢も学校もおまけにクラスまで同じで、デビューも同時期、しかも素性をあまり明かさずメディア露出が多くないなど、共通点もありながら正反対な2人だ。
比較するには一番分かりやすく簡単で、世間にライバル扱いされるのに、それほど時間はかからなかった。
恋宵としてはそんな意識は少しも持っていなかったため、今までも他のクラスメイトと同じ接し方をしてきたし、これからもそうするつもりだった。
だがそんな彼女が、なぜ生徒会室に乗り込んできたのか。
それが、非常に大きな問題だったのだ。