ONLOOKER Ⅲ
「ちょっと待ってよ。この曲は恋宵ちゃんが5年前に作った曲で」
「そんな証拠がどこにありますの? 彼女がそう言ってるだけかもしれないじゃない」
「でも、俺が中3の時に路上ライブで聴いたのは、確かにこの曲だったよ」
「あなたみたいな熱狂的ファンの証言なんて、信じられるわけないでしょ? 口裏合わせかもしれないじゃありませんか」
「そんな、」
乃恵の話には矛盾もないし、彼女が故意に嘘を言っているようには、どうしても見えない。
問題の曲が確かに3年前には完成していたものであると、彼らは知っているにも関わらず、それを証明する術もない。
「私が目障りだからって、こんなのあんまりですわ! Inoさん、あなたを見損ないました」
「え、乃恵ちゃ……」
「失礼しますっ!」
ライバルとはいえ、恋宵のことを評価し、尊敬の念も抱いたうえで、良き競争相手として見ていたのだろう。
出ていく間際の乃恵は、泣きそうな表情をしているように見えた。
そして取り残された恋宵の背中も、また。
細い肩が震えるのを、見ないふりをした。