ONLOOKER Ⅲ



「聖。お前が聴いた路上ライブ、2年前のいつだったか、正確に思い出せる?」
「や、ちょっとそこまでは……受験間近だったから、10月だってことは覚えてるけど」

頬を掻くのは、分かりやすく困っている時の聖の癖だ。
対して夏生は右手のシャープペンを絶えず動かしていて、これは彼が分かりやすく苛立った時の癖である。

「でも、向こうも2年前から製作にかかってたって主張してるんですよね? だったら、恋宵先輩が5年前から作ってて、2年前には完成させてたっていう証拠を出しちゃえば、決定的じゃないですか?」
「恋宵、デモテープかなにか、録ってないのか?」
「一応MDに録ってあったけど……でも、今の曲とはだいぶ違うとこもあるし、いつ録音したかも証明できないんじゃないかにゃあ……」
「他に誰かに聞かせたりとかはしてないんですか?」
「んーん、路上ライブでもひじぃが聴いた1回しかやってにゃいの」

一方は2年前に完成させた曲だと言い、一方は2年前から作りはじめていた曲だと言う。
それを証明する手立てがないのは、どちらも同じだ。
こうなるともはや、どちらが先に発表するか、どちらが先に訴え出るかの勝負になるかもしれない。


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