ONLOOKER Ⅲ
直姫には見覚えのない顔だった。
だが、直姫の視線の先を追った千佐都は、ぱっと目を見開く。
そしてその直後に表れた表情は、まさに般若と呼んでいいかもしれない、実に恐ろしく、底冷えするような冷たさを孕んだものだった。
丸くした目をすぐにきゅっと細めた千佐都は、なにも言わずに立ち上がった。
直姫は無意識に、体を引いてしまう。
足は肩幅弱に開いて、開けずに手元で遊んでいたりんごジュースのパックを、片手に持ち直す。左足を上げて、体を横に構えて。
そうして、ひゅうと、風を切る音がした。
――がこんっ、
パックは見事に、直姫と目が合った、明るい茶髪の男子生徒の額に直撃した。
千佐都が腕を振りかぶった瞬間に、蜘蛛の子を散らすように逃げはじめていたのだが、彼だけは一番下でしゃがみ込んでいたので、逃げ遅れたらしい。
思いきり仰け反った首を見て、直姫は声を上げた。
「ちょ、!? あ、東先輩!?」
しかし千佐都は振り返って、さっきの般若が嘘のような可愛らしい笑顔を、直姫に向けた。
そして、彼らのいる方へ走り出す。
直姫が今までに見たことのない俊足だった。
逃げ足だけは速い者もいれば、その逆もまたしかり。
潜在能力というのは、怒りに燃えれば、いとも容易く引き出されるらしい。