ONLOOKER Ⅲ
「恋宵ちゃん。オハヨ」
「おはよーひじりん!」
結局小走りで駆け寄って、流し目でも苦笑でもなく真正面から微笑みを見る。
嬉しくなったが同時に、ここ数日見ていない無邪気な馬鹿笑いは、自分に気を遣っているからだと思い出して、悲しくもなった。
「今日の定期発表会ってさー、演劇部の女子組だよね。あの宝塚みたいなのまたやんのかなー」
「ひじぃ、」
名前を呼ぶと、必ず顔を覗き込んで、視線を合わせてくれる。
視線が合うと、いつも少しだけ、目許が笑う。
何も言わずにいると、小首を傾げて、色の抜けた髪がさらさらと揺れる。
「………………ひじぃ」
「なに?」
「笑って?」
「……え、」
「笑ってて」
そして、やっぱり。
こんなに優しい苦笑い、他に無い。
そう思って、恋宵も、泣き出しそうに苦笑いを浮かべた。