ONLOOKER Ⅲ
その日の放課後は、ちょっとした事件だった。
ノエルこと山崎乃恵とそのマネージャーが、生徒会室に乗り込んで来るということは、生徒会役員全員にあらかじめ伝えられていた。
大人しく見えても意外に感情の振り幅の広い彼女のことだ、きっとまた泣いて抗議するか、恨みのこもった目で恋宵を見つめながらこちらの話を聞こうともしないのだろう。
話し合いとは名ばかりと、誰もが思っていたのだ。
しかし、全ての授業が終わったあと、ややあってノッカーを打ったノエルの表情は、拗ねたような、けれど少し困ったようなものだった。
そして乃恵のそんな様子を訝しんだその直後に、声を上げたのは、紅。
視線は乃恵から半歩下がって立つ、聞いた話では彼女のマネージャーに、向いている。
「え、榑松!?」
猫に似た特徴的なつり目と、いつでも口角の上がった口。
体格の違いはあるが、見るからに活発そうな顔立ちはどう見ても石蕗家の使用人の1人、榑松その人であるとは、紅だからこそ言えることでもある。
そして榑松を周知である7人全員からの視線を確認した彼女(体格や服装を見るに、彼と言った方が正しそうだ)は、あの快活な笑い方で、言った。
ちなみにこの時ばかりは、夏生と直姫でさえ言葉を失ったのは、仕方のないことであると言えよう。
「あ、どうも落葉松です。榑松の兄です」