ONLOOKER Ⅲ
「私はあくまで事務所の人間なんでね、音楽のことはよくわかりませんが……こちらとしても対策をとらなきゃいけなくなりまして」
「対策、とは」
「上の方の人によると、この際、発表を早めるなんてセコイことしないで、思いきっちゃうのがいいらしいですよー」
「訴訟ですか。勝算があると?」
おどけたようにも聞こえる口調でぺらぺらと話す落葉松とは対照的に、夏生は普段通りの対外用、いつもより少し冷たいとも言える態度だ。
恋宵にはマネージャーが付いていない。
それは恋宵自身が望んだからに他ならないのだが、今回のような場合に、すぐ見方になってくれる大人がいないということだ。
その恋宵は今は、乃恵と落葉松、紅と夏生が対峙する応接スペースのソファーではなく、いつもの机の端に腰かけてただ押し黙っていた。
そんな彼女を一瞥した落葉松は、苦笑を強くして言う。
「まさかまさか、いきなりそこまでしませんよ。……つまりね、」
一度言葉を切り、柔らかいとも言えるその物腰で、さらりと重い鉄球でも叩き込むかのようだった。
「そちらの出方次第、ということになりますよ、ってことです」