ONLOOKER Ⅲ



「脅迫じゃんあんなの。ちくしょー録音しとけばよかった」
「でも直接脅しかけてきたわけじゃないからねぇ。発表したら訴えるなんて一言も言ってない、って屁理屈捏ねられるんじゃない?」
「あんだけ言ってれば十分でしょう。屁理屈ならうちの顧問弁護士だって負けねーし」
「夏生、荒れてんな……」

聖が、少し驚いたように小さく呟いた。
よほどやりにくい相手だったのだろうか、夏生は表情だけならいつもと変わらないが、纏う空気は分かりやすく剣呑なものだった。
普段から不機嫌無愛想無関心の三冠王と称される夏生だが、こうもあからさまに荒れているのは、かなり珍しい。
言葉使いもそうだ。
中身には存分に毒が込められているものの、やはり育ちがいいのか、乱暴な物言いはほとんどしないのだ。

さりげない脅迫や嫌味なんかは立場上慣れていると言ってもいいはずだろうに、今回の件はやけに夏生を苛立たせていた。


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