ONLOOKER Ⅲ
痛
あ、と、声を上げたのは、向こうも同様だった。
東校舎と北校舎を繋ぐ渡り廊下で、お互い気まずそうに俯く。
このまま何もなかったかのようにすれ違うのがいい。
しかし、すれ違う瞬間、反射のように僅かに視線を上げた恋宵は、同じように乃恵も目を向けていることにまず、驚いた。
そして思わず身を引いて、微かに彼女から遠ざかろうとしてしまう。
それを見た乃恵がどう感じたか、どんな表情だったかはわからないが、そのせいで、より深く俯いてこの場をやり過ごすことを願う恋宵の旋毛に、聞いたこともないくらい刺々しい声が浴びせられることになったのは、確かだ。
「…………嘘つき、」
つい顔を上げそうになって、瞬時にそれを自分で拒否したのは、自己防衛の一種だろうか。
きゅ、と拳を握りしめた。