ONLOOKER Ⅲ
「……あ、恋宵ちゃん」
「んりゃ? ひじりんに直ちゃんじゃまいか。どしたの?」
「夏生先輩の使いっ走りで職員室に行くところです。人使いの荒さへのせめてもの抗議として、中庭を突っ切らずに中から回って行こうと」
「直ちゃんブラックねぇ……」
「えぇ、まぁ」
じゃあ生徒会室で、と言って別れた恋宵は、直姫にはいつも通りに見えた。
目に見えて動揺している聖を一瞥して、眉を潜める。
「なにやってんですか。バレたらどうすんですか」
「や、だってあんなこと言われて……恋宵ちゃん、平気なはずねぇのに」
眉尻を下げた聖は、しゅん、という効果音がぴったりな叱られた仔犬のようだった。
直姫が恋宵に言ったことは全て事実だったが、一つだけ抜けていることがあった。
恐らく恋宵が2人には知られたくなくて普段通りを装った、先ほどの一連の出来事を、目撃してしまっていたのだ。
乃恵が恋宵に辛辣な言葉を浴びせて走り去るところにばったり行き当たってしまい、恋宵が顔を上げたのを見た聖が慌てて直姫を引っ張って、来た道を廊下一本分ほど戻ったのだ。