ONLOOKER Ⅲ
職員室を出たのは、それからずいぶん経ってからだった。
ほとんど無意味に広い悠綺高校の敷地内だ、1つの校舎を横切るだけでも10分はかかる。
その上そもそもの職員室への用事だった生徒会誌の掲載記事の説明が思うようにいかずに、結局終わったのは、夏生に言いつけられて生徒会室を出てからたっぷり30分は経った頃だった。
聖から聞いた恋宵の話は、とても簡潔に終わった。
恋宵には、二卵性双生児の妹がいたが、もともと母親が病気がちだったのもあってあまり丈夫に育たず、2人が産まれて数日で亡くなってしまったらしい。
それを、恋宵は最近まで知らずに育った。
両親は兼ねてから将来は自分たちの仕事を継いでほしいと言っていたのに、その期待には答えずに、歌手としてデビューしてしまった。
恋宵が妹の存在を知ったのは、その頃。
自分が妹の分まで愛されて愛されて育ったのだと知って、恋宵は一度だけ、聖にこう漏らしたことがあったそうだ。
『あたし、こんなことしてていいのかなぁ』