ONLOOKER Ⅲ
「え、耳がいいと大変なんですか?」
「そーよ? ちょっとの騒音でもイライラしたりするもん」
「え、恋宵ちゃんこっち見てない? なんかこっち見てない?」
「ちょっとの騒音でもイライラしたり」
「アレ? 2回言った!?」
「聖、泣くな、男だろう。涙はな、堪えなければいけない時もあるんだ」
「泣いてねーし! 泣かねーし!」
「聖先輩ガンバでーす」
「うるせぇよ! 直姫お前、それ良くない! 良くないよ!?」
だいたいお前はいちいち接し方が先輩に対するものじゃないし云々、長々と説教(この数ヶ月で結構積もった文句と愚痴ともいう)を決め込もうとする聖の肩越しに、くすくすと笑う恋宵の姿が見えた。
恐らくわざと明るく馬鹿馬鹿しく振る舞っているこの空気が、いつもの生徒会室みたいで、直姫は少しだけ目を細める。
ここに夏生がいれば時折目許だけで笑いながら茶々を入れ、准乃介がいれば綺麗な笑顔で聖にフォローの振りをしたとどめを与えるのだろう。
パズルのピースのように、この光景にかちりとはまる様が想像できた。
些細な音でも耳が拾う。
この生徒会室において、恋宵がいつも窓際の隅で何かを口ずさんだり、会話の中心にいるようで傍観者の位置にいるのは、そういうわけだろう。
これは直姫の想像に過ぎないが、きっとこの空間が、恋宵にとっては。