ONLOOKER Ⅲ


「今日は、その……落葉松は」
「来ておりません。だいたいこの件には、彼は関係がなかったんです」

やはり俯いたままの乃恵の言葉に、怪訝な目を向けたのは、その場にいた半数ほどだった。
盗作したのが乃恵側だというのは紛れもない事実なのだし、もし乃恵自身には知らされていなかったとしても、彼女のマネージャーのとしてさすがに、無関係というわけにはいかないだろう。
けれど乃恵は、誰かがどういうこと、と尋ねるより先に、その答えを自分から言った。

「私も落葉松さんも、昨日までは全く知らないことでした。でも」

一つ、大きく息を吸って吐いて、ようやく、顔を上げる。
その目は乃恵の向かい側、ソファーに腰かける夏生と紅の背後に立っている、恋宵に向いていた。

「あなたの作品を盗んだのは、私たちです。心からお詫び申し上げますわ」
「え、」


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