ONLOOKER Ⅲ
「私側からの発表は、取り止めます。Inoさんは予定通りに新曲を発表してください」
「ですが」
物憂げな目をゆるゆると乃恵に向けたのは、夏生だった。
今回の件、乃恵が盗作の事実を知ったからといって、では発表はやめます、新曲はなかったことに、などという対応で済む話ではないのだ。
既に双方が新曲発表を予定した日を、数日後に控えている。
どんなコネやツテでか、もう彼女らの新作を耳にする機会があった者も、少なからずいるはずなのだ。
そしてそれらが非常に似通っていると誰かが気付くのも、時間の問題である。
つまり、少しだけ、遅すぎた。
そんな意味を込めて、夏生は簡潔に言う。
「…………どうやって」
「私が、マスコミにリークします。私のプロデューサーやスタッフが、盗作を働いてしまったと」
「え……」
恋宵が声を発したのを聞いたのは、直姫にとっては今日、これが初めてだった。