ONLOOKER Ⅲ
「はじめに言ったように、私は新曲の発表を取り止めます。ですからそちらも、大事にはしないでいただきたいんです」
「それは……いいけど、だから」
「周りが許そうが許すまいが、私の決意は変わりませんわ。強行するようなら、こちらも逃げれば良い話ですもの。歌い手がいなくては新曲もなにもないでしょう?」
乃恵の言うことももっともだと思えたし、恋宵がいいと言うなら、誰も異論はなかった。
しかし、乃恵のこの態度には、違和感を感じる。
つい昨日までは、恋宵をの姿を見れば睨み付け、わざと嫌味を聞かせ、直接対峙すればヒステリックに喚くだけだった彼女が、今日はやけに理性的なのだ。
それどころか、伏し目がちに、自嘲するように告げた言葉に、彼らは耳を疑った。
「今までのこと、ごめんなさい。感情的になって、言う必要のないことまで言ってしまいましたわ」
「え、……あ、いいよ、気にしてない」
「私……少し、羨ましかったのかもしれませんわ、あなたが。僻んでいたんです。こんな居場所を持っていて、自分を晒け出せる人がこんなにいて」