ONLOOKER Ⅲ
そんな時、かちゃり、と、休憩室の扉が開いた。
騒がしさが引いたのを見計らって出てきたのか、夏生が文庫本とマグカップを手に立っている。
「あ、やっと帰ったんだ」
「夏生てめーなに一人だけ逃げてんだよ」
「だって俺には関係ないし」
「夏生ぃ、大変にょろよ! 直ちゃんが東先輩に気に入られちゃって」
「はぁ? お前ほんとに変な人にばっかり好かれるね……」
「自分ではどうしようもないんだって、しょうがないじゃないですか」
「……あれー、」
呆れたように言う夏生と、面倒臭そうに唇を尖らせる直姫と。
そんな二人を見て、准乃介は口を開いた。
「直姫さぁ、東がなんで絡んでくるかちゃんとわかってんの?」
「はい?」
首を傾げる。
直姫のことだ、会話の中で自然に出てきた“気に入る”の意味を、やはりわかっていなかったのではないか。
そう尋ねられているのだと気付いて、あぁ、と呟いた。
「東先輩が……その、好意を持ってくれてるっていうのは、ちゃんと分かってますよ」
「へー、意外」
「なにがですか?」
訝しげにどこか不満そうに眉を寄せる直姫に、誰からともなくわずかに笑みが漏れる。
「だって直ちゃん、びっくりするぐらい鈍感だからー」
「だって……あんな話されたら、いくらなんでもわかりますよ」