ONLOOKER Ⅲ
記者会見の場、落葉松と共にカメラのフラッシュの中に現れた乃恵は、とても穏やかな表情をしていた。
──この度の事務所の不祥事は本当に申し訳なく思うが、正直自分は、少しほっとしている。このまま何も知らずに、人から盗んだ歌を歌い続けることになっていたかもしれないと、思うと。
引退するのは、責任を取るわけでも、逃げたいからでもない。歌手活動が嫌いなわけでもない。でも、本当に自分がやりたかったことを、やりたくなった。
盗作のことを知って、最初に思ったのは、これで振り出しに戻るかもしれない、ということ。世間の信用も今の人気も全て失うかもしれない。でも、そうなったら、自分が本当に目指したかった道を、目指せるかもしれない。
そもそも歌手になったのは、小さい頃からの夢への足掛かりに、少しでもなるかと思ったから。けれどそれは違った。今の立ち位置もキャラクターも、事務所の方針でこうなっただけのことだ。顔と声が合うから、清楚で女の子らしい“ノエル”になった。それが、もう嫌になった──