ONLOOKER Ⅲ

降り出した



***

「直姫おはようただいま家にお土産のカニ送っといたからね!」


これはあくる日の、真琴の第一声である。


「うんおはようおかえりありがとう。」
「もうねもうね、すっごい楽しかったよー」
「よかったね……こっちはちょっと大変だったよ」


直姫はというと、相変わらずではあるのだがいつにも増して地を這うようなテンションで、まだホームルームも始まる前だというのに、すでにその顔には疲れが見え始めていた。
例によって例のごとく徹夜の連作映画鑑賞会を決行したわけではなく、これはただの精神的疲労である。
真琴はぱちりと瞬きをして、少しだけ眉を寄せた。


「え? なにかあったの?」
「女の子ってさぁ……意外とパワフルだよねぇ」
「え!? なにがあったの!?」


直姫の乾いた笑い声に、真琴の眉間に寄ったしわが深さを増す。
彼が椅子から立ち上がりかけた時、直接ではないものの、直姫の心労の元凶となっている人物が、姿を現した。
もうクラスメイトも慣れてしまった、普通ならば西校舎に入る用事などほとんどないはずの彼女だ。

< 22 / 208 >

この作品をシェア

pagetop