ONLOOKER Ⅲ

 *

案の定、四時間目の授業が終わる前に、細かい水滴が窓ガラスに散らばりはじめた。

校庭にも中庭にも遊歩道の石畳にも、ぱたぱたと黒い染みを作っている。
雨脚はきっと、どんだん強くなっていく。
乾いた場所はじきになくなるだろう。

雨が暗い雰囲気を持つのは、湿ると色濃くなる舗装道路のせいかもしれない。
やけに見た目の若い女教師が英作文を読み上げるのを聞き流しながら、直姫は考えていた。

英語で作文を書く、というのが、今日の授業で出された課題だった。
中学生の頃から気に入って使っているメーカーのシャープペンを手に持つが、原稿用紙にはまだ題名と名前しか書いていない。

作文は昔から苦手だ。
どうも一歩引いたものの見方をしてしまうようで、主観的な意見を文章にすることが不得意なのだ。
読書感想文を書けばもっと主人公に感情移入しましょうと評価されたし、夏休みの思い出を絵日記にすれば、楽しかった、嬉しかった、悲しかったなどの単語がまったく出て来ないのは、クラスでも直姫だけだった。

ただでさえ嫌いな作文なのに、時期的にもっとも国民の関心を集めているだろう時事問題、次期内閣総理大臣の予想を、理由を添えて最低でも原稿用紙一枚半を使って書きなさい、なんて。


(どうでもいいにもほどがある……)

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