ONLOOKER Ⅲ

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雨はいつのまにか本降りになって、中庭でのランチなんてどう考えてもできる状況ではなかった。
こんな土砂降りでは、校舎を出た瞬間に全身びしょ濡れになってしまう。

そのため直姫と真琴は、千佐都に連れられて、普段あまり来ることのない食堂へと来ていた。

注目の生徒会一年、西林寺直姫と、人気俳優の佐野真琴、そして若き実力派ピアニストと唱われる、東千佐都。
接点のわからない顔ぶれに、自然と注目が集まる。
だが、周囲からのさりげなく不躾な視線を気にするほど普通の神経を持っているのは、この場で真琴だけだった。

一人落ち着かない真琴と、やはりお喋りが止まることのない千佐都と、それを聞いているのかいないのか、無難な相槌を打つ直姫。
端から見れば、なかなか異質な様子だったであろう。


「ごちそうさまー」
「あ、東先輩。自分これから図書室に行こうと思ってるんですけど」
「そう。あたし圭ちゃんに呼び出されてるの、それじゃね!」
「はい。じゃあ」


相手を引っ張って一歩先を行くような話し方をする千佐都だが、直姫はそれを少しも不快に感じていなかった。
真琴が不思議そうな表情を浮かべる。
幼馴染みの彼らといる時の千佐都が、どれだけ辛辣で我が儘で子供っほくてくだらなくて、直姫と話している時の彼女がどれだけ常識的に見えるか、彼は知らないのだ。


「……圭ちゃんって?」
「松永先生だよ、地理の。ほら、ジャージの先生いるじゃない、髪の長い」
「あぁ、」
「紅先輩たちの担任だよ」
「そっか……一度も話したことないな」


三十歳前と若く、さばさばした取っつきやすい性格もあってか、生徒に人気の高い教師の一人だ。
入学したばかりの一年生でも、少し関わりのあった生徒は皆すぐに「圭ちゃん」という愛称で呼ぶようになる。

直姫は選択教科で地理を取っていないため、これまでまったくと言っていいほど関わりがなかった。
そのため、紅や准乃介や、あとは彼女の大学の後輩だという居吹の話を聞くしか、彼女を知る方法はない。
しかし生徒会顧問であるその不良教師も、もうずっと生徒会室に姿を現していなかった。


(……信用されてんだか、面倒くさがられてんだか)


十中八九後者だろうと、直姫は内心で即決の判断を下した。

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