ONLOOKER Ⅲ

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悠綺高校の広い広い図書室に、直姫はいた。
真琴は次の授業の予習をし忘れたからと、教室へ戻っている。

DVDのずらりと並んだ棚の間を歩く、慣れた感覚。
ここが学校であることを忘れそうだ。
ここに初めて来た時は呆れすら感じたのを覚えている。

目当てのDVDを借りて、教室に戻ろうと廊下へ出た、その時だった。

なにか、普通に呼び掛けたり肩に手を置いたりなどの一般的な動作より、足を止めさせるのには効果的かも知れないというくらいの、不吉な視線を感じる。
感じるが、振り返りたくなくて、そのまま素通りしようとした。
が、しかし。


「さーいりーんじくーん」
「わ、」


両側から肩に腕を絡められ、わずかに頬と眉間が引き攣るのを自覚しながら、しぶしぶ無視を諦めた。

右には井上涼介、左には佐久間颯。
背後からは、とことこと歩み寄ってくる七川光里と、呆れたように息を吐く大道寺倭。
姿と名前とが一致していなかった直姫に、非常にわかりやすいがだいぶ失礼な説明でもって教えてくれたのは、聖と准乃介である。

直姫は無言で、目を細めた。
厄介な奴らに絡まれた。


「今無視しようとしなかったー?」
「……気付かなかっただけです」
「そう」
「なにか……ご用ですか?」
「べっつにぃ? 俺らの大事な幼馴染みが優男に泣かされたりしてねーだろうなぁ、なんて思って」
「千佐都の惚れた男やからなぁ。なぁんか一癖あるはずやん?」


過保護にもほどがある。
そんなに大事ならちゃんと捕まえておけよと、心の中で毒づく。

優男どころか実は女でしたなんて、もしバレたら大変なことになりそうだ。
あまり触らないでほしいと、肩を強張らせた。


「……自分は、そんな気はないんですが」
「は? 当たり前じゃん。あんたみたいのと付き合うなんて認めるわけないでしょ」


光里の言い種と冷ややかな物言いに、夏生と同じものを感じた自分の直感は、間違っていなかったのだと知る。
彼女も、面倒な幼馴染みを持ったものだ。

しかし聞くところによると、千佐都も含めてお互いがお互いに対して、そんな依存の仕方をしているのだとか。
まったく奇妙な五人組である。

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