ONLOOKER Ⅲ
「すいません遅れましたー」
何がなんでもやる気を見せたくないのか、それともこれで彼女なりのやる気なのか。
どちらにしろ不真面目極まりないことに変わりはないが、他に圧倒的に素行の良くない者がいるために特になにか言われることもなく、直姫はやはり少し遅めに、生徒会室の扉を開いた。
この間のようなことがあっては面倒なので、あれから数日、心なしかその瞬間だけは警戒しているような気もする。
しかし分厚い扉の向こうにあったのは、いつもと同じ放課後の日常だった。
紅にちょっかいを出しては怒られる准乃介がいて、アイマスク片手に休憩室に引っ込む夏生がいて、恋宵の周りにはギターと譜面と鼻唄があって、結局口を動かしながらもまともに作業しているのは、聖と真琴の二人だけで。
直姫は、少しほっとして、鼻で溜め息を吐いた。
*
『もし俺が女だったら、どうなってたかな』
『じゃ、もし私が男だったら、どう?』
幸せそうに微笑む二人が、手を繋いで歩きながら、互いに言い交わす。
少し前に話題になったドラマの最終回、ある有名な台詞だ。
『そんなの、決まってんだろ。お前に出会わない人生なんて有り得ない。』
『でも、泣き虫なのはそっちの方だったかもね。』
『嘘つきなのは、そっちかもよ?』
こてこてに甘い恋愛ドラマのラストシーン、画面の中で、微笑みながらその言葉を口にしているのは、ほかでもない彼であった。
裏返った声が生徒会室に響く。