ONLOOKER Ⅲ
「いっ……た、」
「わ、すいませんっ」
椿の木の向こうから突然現れ、そして案の定ぶつかって倒れ込んでしまった人影に、直姫はすぐさま手を伸ばした。
素直に差し出された手のひらが、それほど大きくないはずの自分のものより、さらに二回りも小さいことに、少し驚く。
だが、やはり顔には出さずに、立ち上がった彼女の顔を覗き込んだ。
「大丈夫ですか? お怪我は……」
「だっ、だいじょーぶです、ありが、」
はた、と。
不自然に途切れた声は、少女のものだ。
心配そうな表情が顔に表れていない直姫と視線が合った途端に、瞬きすら忘れてしまったように凍り付いてしまったのだ。
直姫はようやく、片方の眉をくい、と寄せた。
「……? あの」
「あ、……な、なんでもないの、ごめんなさい!」
しかし、あからさまに視線を逸らした少女は、裏返ったような声でそう言うと、すぐに走り去ってしまったのだ。
垣間見えたのは、赤くなった耳だけ。
(……どうしたんだろ、?)
取り残された直姫はというと、唐突さにしばし呆然と立ち尽くしたあと、当初の目的を思い出して、何事もなかったかのように、また北校舎へと足を早めるのだった。
湿った空気に少しの不快感を感じながら、無表情で、空を見上げて。
「……雨、降るかな……」