ONLOOKER Ⅲ

雨空と彼


***

雨の季節も、もう一週間近く続いている。
やはりどこか重く水分を含んだ空気がすべてくるむような、そんな季節だ。
日本中が、気が滅入りそうな雨模様、青灰色の空を見上げては、溜め息ばかり溢している気がした。

しかしそんな中でも、活気に溢れ、こんな天候のせいでむしろ体力と動きたい衝動を持てあましている人間はいるものだ。
夏生いわく『元気なバカ二年生代表』の二人は、今日も今日とて、全力で遊んでいた。


「ひじぃの髪の毛静電気凄いにょろ~」
「あー、俺猫っ毛だから……て、ちょっ、風船やめて風船! きゃー!」
「にゃははははくるしゅうない」
「ちょっと、恋宵ー? どこからこんなに風船持ってきたのー」
「なんかぁ、おうちにいっぱいあったのですにょろ」
「た、たらのめ製薬?」
「今時風船配ってる薬屋さんなんかあるんですねぇ」
「あぁ、うちも弟いるからよく貰うなー」


『タラノメ製薬』という社名ロゴと、イメージキャラクターらしい魚のイラストが白抜きされた色とりどりの風船がいくつも、うろうろと揺れながらそこらじゅうに転がっている。
わざと割ったり聖にぶつけたりして楽しそうに遊ぶ恋宵だが、タラノメは植物であってその魚とは事実上なんの関係もない、ということは、知っているのだろうか。


(……ほんとに高校生かな、この人たち)


直姫が呆れたようなわずかに微笑ましいような気持ちで、はしゃぐ恋宵と聖を眺めていると、不意に窓際から声がかかった。
騒がしい中でも不思議と響く、高くも低くもない声である。


「ちょっと、直姫」
「はい?」

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