ONLOOKER Ⅲ


夏生は、こちらに来い、というのを、目線は向けずに手招きだけで示した。
視線を落としているのは、次の生徒総会で使うのか、なにかの予算案らしき書類だ。


「これ、コピー取って職員室に持って行って。十五部」
「えぇー」
「えーじゃない。急ぎね」
「はーい……」


夏生の指示にあからさまに不服そうにして見せるのは、きっと直姫くらいのものだろう。

それも夏生に軽くあしらわれるというのもなんとなく気に入らないが、言われた通りにコピー機に向かう。
夏生は怠惰だし不真面目だが、仕事をしていないわけではないのを知っているからだ。
昼寝をしなければもう少し楽になるはずだが、やるべきことはきっちりこなしているので、直姫から言えることではない。

封筒に入れた書類を手に生徒会室を出た直姫は、この雨の中を走るのかと、薄いしかめっ面で窓の外を見上げた。

渡り廊下を通れば外に出なくてもいいし濡れることもないが、この北校舎から東西の校舎を経由して南校舎へ行くと、走っても十五分以上もかかってしまう。
中庭を突っ切ればずいぶん時間は節約されるが、それでは自分も書類も濡れてしまうだろう。

いつからか鞄に入れっぱなしになっていた折り畳みの傘を持っては来たが、風も少し出てきたし、無事に届けるのは至難の業かもしれない。
直姫は、わずかに寄っていた眉間のしわを、深くした。


(やっぱ雨、嫌いだ)

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