ONLOOKER Ⅲ
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「ただいま戻りました」
「おわ、水も滴る良い男」
「男?」
頭を左右に振ると飛沫が跳ねて、准乃介からわずかな非難と、恋宵のお節介を浴びた。
「直ちゃんびしょびしょ! 傘持ってったんじゃにゃいのー!?」
「えっと、東先輩がいたんで、貸して……」
「そんにゃ男前なことして! まったくあなたは天然タラシですかにゃ、ほらこっち来なさいっ」
「は? たらのめ……」
恋宵に腕を引かれるまま休憩室に入ると、夏生が中毒のように飲むコーヒーの薫りが、壁にまで染み付いたように、しっとりと香っていた。
小学校の職員室ってこんなかんじだった、と思いながら、前髪から落ちる雫を目で追っていると、不意に視界が暗くなる。
「ほら、頭拭いてー」
「……ありがとうございます」
頭から被せられたタオルの上から、恋宵の手のひらの感触が伝わる。
わしゃわしゃと髪を掻き混ぜる手に、なんとなくされるがままになっていると、ふふ、という笑い声がした。
少し聞こえづらいが、なんだか楽しそうな人が、目の前にいる気がする。
タオルと前髪の隙間から目が合った恋宵は、やはり笑顔だった。
「なんか、年の近い妹みたいにょろ」
「……そうですか? よく弟っぽいっていわれるんですけど」
「そーねぇ、性格的には弟かにゃ。生意気だし、負けず嫌いだし」
誉めているわけでもないのだろうが、にこにこと嬉しそうに笑っているあたり、貶しているわけでもないのだろう。