ONLOOKER Ⅲ


「恋宵先輩、一人っ子ですよね? 妹欲しいんですか」
「んー、そだねぇ……」


そう呟いて、ほんの一瞬だけ、遠い目をした。
すぐに近づいたので、見間違いだったのかどうか、わからない。


「直ちゃん、そのままじゃ体冷えちゃうにょろよ。着替えなきゃー」
「今日体育なかったから、ジャージ持ってないです」
「えっと、ここに確か、にゃんか着替えが……あ、あった」


休憩室の隅になぜか置かれたクローゼットを開けると、さらになぜか、十数着の衣類がぎっしり詰まっていた。
なんだか明らかに用途不明なものまで見える。


「ちょっと待って、なんでタキシードとかメイド服とかあるんですか」
「着ぐるみまで……あっ、チャイナドレスあるにょろ、今度紅ちゃんに着せよ。直ちゃんは……はい、セーラーふ」
「ジャージでいいです。ジャージがいいです。」


どうやら過去の行事ごとなどでことあるごとに使った仮装用の衣装などが、行き場をなくしてここに辿り着いたらしい。
中には先日の定期発表会で直姫が着た大友家のメイドのユニフォームもあって、嫌なことを思い出しかけると共に、紅に同情した。

恋宵の期待に満ちた目と言葉はとりあえず無視して、着替えるから出てください、と、細い肩を扉の向こうに押し出す。

その時、生徒会室には、ノックの音が響いていた。
恋宵はそれに気付くが、直姫は気付かない。

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