ONLOOKER Ⅲ
扉を開いた紅は、見慣れた人物の意外な挙動に、ぱちりと瞼を瞬かせた。
「千佐都? どうしたんだ?」
「あ……えっと、直姫くんに用事が……」
「直姫に?」
「さっき、傘を借りたから、返しに来たんだけど……お礼、言おうと思って」
どことなくもじもじと俯く彼女に、いつものサバサバした印象は見当たらない。
緊張気味に頬を少し染めている様子は、こう言ってはなんだが、まるで“女の子”のような。
「あぁ、それなら私から言っておこうか」
「や、あの……直接、言いたくて」
「そうか。なら今、休憩室に……」
「そ、そう、ありがとう! ちょっとお邪魔するね!」
言うが早いか千佐都は、いそいそと奥の扉へと向かう。
手には、綺麗に畳んだ折り畳み傘。
その姿を彼らは、なんの気なしに眺めてしまっていた。
気付くまでに、一瞬の間が開いてしまう。
(あ……着替え中、)
その隙が不覚だった。
こと西林寺直姫に関して、薄着姿でも体を見られることは、すなわち彼女の最大の秘密を露呈することになる、致命的なミスであると。
しかし制止は間に合わず、千佐都は、勢いのままに開けてしまったのだ。
驚愕と失意へ続くであろう、その扉を。