ONLOOKER Ⅲ

 *

「直姫くん」


それからまたさらに翌日。
放課後、背後から呼び止められたのは、生徒会室へ向かう途中の北校舎だった。

振り返ると、もう向こうから関わっては来ないのかと思っていた人物。
北校舎にいる生徒で『直姫くん』と呼ぶ、唯一の人である。


「東先輩……」
「この前はごめんね……あ、それと、昨日も。あいつらがまた押しかけちゃったみたいで」
「いえ、」


苦笑は大人びている。
楽しそうな笑顔との大きな違いはやはり、心からのものか、そうではないか、なのだろうか。

彼らもきっと、あの子供のように笑う姿が見たいのだ。
大事な幼馴染みを泣かせた直姫は、当然悪者だろう。
それにしても感じ悪いけど、と思っているが。


「あ……、えっと」
「涼介たちにはなんにも言ってない。これからも言わないつもり」
「……どうして、ですか」


理由を問うのも、おかしな話かもしれない。
彼女が話したくなければそれを聞く権利は直姫にはないし、ただ黙って、ありがたくそれに甘んじているほかはないのだ。

千佐都は少し首を傾げてみせた。


「だって、なんの事情もないのに、そんな大変なことしないでしょ?」
「……まぁ、それは……色々と事情は」
「ほんのちょっとの間だけだったけど、好きだった人を困らせるような真似、したくないわ」
「先輩……」
「あたし、男運は最悪だけど、諦めは良いの」


そう言って微笑む千佐都は、普段と変わらず大人っぽくて、普段と変わらず子供みたいで。良くも悪くもまぁ、長い間同じ顔ぶれで一緒にいる理由が、ほんの少し分かった気がした。
これじゃあ、居心地がよすぎて離れたくないのも、仕方ないかもしれない。

直姫は、目を細めて、小さく笑った。
心からのものではないが、愛想笑いとも言い切れない微笑みだ。


「……ありがとうございます」
「あぁあ、君、ほんと女にしとくの勿体ないな」
「え、それ……褒めてるんですか」
「え? まさかぁ」
「……先輩こそ。男運悪いの、勿体ないですよね」
「ありがと、褒め言葉として受け取っとくわ」

< 45 / 208 >

この作品をシェア

pagetop