ONLOOKER Ⅲ

波乱の端っこ



***

『ただいま速報が入りました、えぇ、ただいま速報が入りました』


大事なニュースを視聴者が聞き逃してはいけない、というのはわかるが、その言葉を二回繰り返す意味はわからない。

化粧は厚いが年齢は隠せていないアナウンサーが、急いでいるのかいないのか、早口で捲し立てるのは、参議院議員選挙の様子らしい。
誰がどんな選挙活動を行っているとか、誰が出馬を発表しただとか。
近々発表される次期総理大臣の予想も、白熱してきている。

そんなものをなんの気なしに視界の隅や鼓膜の端に受け入れながら、紅は生徒会室で、いまだ来ない後輩たちや、少し遅れると言った同級生を待っている。
そしてやはりなんとなく、持て余した暇を埋めるために、時間と手間を掛けて紅茶を淹れてみることにして、テーブルの上にティーカップを並べていた。

カップは最近お気に入りの、白地にてんとう虫とクローバーがあしらわれたものだ。
政治には無関心ではないが、まだよくわからない。

そんな時、ノックもなしに生徒会室の扉が開かれた。


「ちーっす、……て、なんだ、石蕗だけか」
「なんだとはなんだ。最近よく来るな」
「そりゃあ、顧問なんだから」
「昨年度は半年に一度しか来なかったように思うが」
「だって大道寺怖かったし、だいたい俺がいてなんの役に立つっつーんだよ。いやぁ優秀な教え子を持って嬉しいなー先生」


夏生だったら、生徒会長が時間に遅れてどうするんだ、と文句の一つも言ってやろうと思っていた彼女だったが、現れたのは、生徒会顧問である竹河居吹だった。

薄い色のサングラス、ボルドーのシャツにはノーネクタイで、スーツはグレーのピンストライプ。
相変わらずの派手さにすっかり慣れている自分に、いいのかそれで、と内心呟く。

それが入って来るなり、背広の内ポケットから煙草の箱とライターを取り出したものだから、やはり口を尖らせる羽目になった。

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