ONLOOKER Ⅲ
「知ってるよ、君のことは。有名人だもんね」
「え、自分がですか?」
「だって生徒会でしょ? それに、この間の定期発表会のシンデレラ。あれ、すごく良かったよ」
あぁ、そのこと……、とでも言うように、直姫は溜め息と共に苦笑を吐き出した。
この悠綺高校では生徒会役員への注目度がやけに高い、ということは、彼女にとって、入学して初めて知った事実なのだ。
そして定期発表会での女装(直姫の場合本来の姿なのだからそう言うのが正しいのかは分からないが)はすでに、直姫の中でできるだけ思い出したくないことの一つとなっていた。
直姫は、自身の知らないうちに物凄く不本意な仕方で、顔と名前の知れた人物になっていたわけだ。
「あたしもあの発表会でピアノ弾いてたのよ。詩の朗読の伴奏だったんだけど、観てた?」
邪気のない笑顔を浮かべ、それでいてどこか気の強そうな話し方をする彼女の顔は、直姫の記憶の中にはいない。
あの時は直前まで練習があったし、舞台を降りた後も、一悶着というほどでもないが、ばたばたと忙しかった覚えしかないのだ。
「えっと、すいません。あの時は……色々あって、他の発表を観る余裕がなくて」
「なんだ、そうなんだ。そうよね、主役だったもん、緊張してたよね。ハプニングもあったし」
彼女の言うハプニングとはきっと、本番中に照明器具が舞台に落下してきたことだろう。
直姫の考えているものとは少し違うが、脅迫やらなにやらのことなんて言えるはずもないし、言う必要も全くない。
そのため直姫は、誤魔化すように乾いた笑いを漏らすしかなかったのだった。