ONLOOKER Ⅲ

 * *

今日は、本当に良く忘れ物をする日らしい。
三回目の苦笑いは、昼休みだった。
毎日欠かさず持って来ていたはずの、榑松手製の弁当を、家に置いて来てしまったというのだ。

食堂は混むからと(実際には彼らが行った時に運悪く混んでいるのではなく、彼らが行くから混むのだということを、少なくとも紅は知らない)購買で適当に買って、生徒会室へとこっそり入り込んだ。
勝手に生徒会室の合鍵を作って好きに出入りしている事実に、紅はあまりいい顔をしないのだが、今日はしょうがないでしょ、という言葉に、不満げに口を噤んだ。


明けかけた梅雨の合間。
日が射していて、肌で感じるほどの湿気はない。

応接スペースの大きなソファーに二人腰掛け、なんでもない世間話をしながら、ゆっくりとした時間の過ごし方をしていた。


「ねぇ、紅」
「ん?」


会話がちょうど途切れた、そんな時。
准乃介は、普段の飄々とした雰囲気はそのまま、口調も声色も少しも変えずに、言った。


「紅、俺になんか言うことあるでしょー」


わずかに目を見開いた紅が、くだらないといつものように一蹴できなかったのは、それが図星だったからだろう。
それも、こんなふざけた空気で言い出せることではない、それなりに深刻な秘密を、彼女は抱えていた。

それでも微笑んで、言う。

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