ONLOOKER Ⅲ
「なんのことだ? 相変わらず突然だな、お前は」
「やだなぁ、俺に隠し事なんかできると思ってんの?」
「隠すもなにもないだろう。なんでもない」
「紅さ、自分じゃ気付いてないかもしれないけど。嘘吐くときに右手で髪触るの、癖だよね」
ぱ、と、長い黒髪を一房摘まんでいた右手を、下に降ろす。
どことなく気まずい空気に、不快そうに眉をひくりと動かした。
「多分他に気付いてるの、榑松ぐらいだと思うけど」
「……な、」
「で? なにを隠せてるつもりだったの」
全部お見通し、というように見下ろす斜め上からの目線に、悔しそうな表情を浮かべる。
苛立ちを鎮めようとしたのか、准乃介から目線をそらしたが、ずらした先にはソファーの肘掛けしかなくて、それをじっと見つめていた。
「なんで……お前に、話さなきゃいけないんだ」
「俺が知りたいから」
「どんな言い分だ、……だいたい准乃介には」
「関係ないなんて言わせないよ?」
自分は事情を全て知っている、と言わんばかりの口振り。
先回りした言い方は、紅が弱気になっていると踏んだ時にしかしない、彼の追い詰め方だ。
少なくとも校内に限るなら、准乃介のことを一番わかっているのは紅だと、誰もが言い切れた。
だが、そんな彼女でさえ、彼の考えがまったくわからないことが、度々あるのだ。
そして彼は、飄々としているようで冷たく、軽い話題のように重い決定打を、静かに叩き込んだ。
「紅、誰から嫌がらせ受けてんの?」